メイン写真 メイン写真

2025.04.30

AND ARCHI

小さくても、大きく住める家の設計

広さとは面積ではなく、感覚である

「30坪しかないのですが、大きく住めますか?」

設計相談でよく耳にする問い。
数字としての「広さ」を気にする気持ちはよく分かります。
でも、住宅の快適さや豊かさを決めるのは、「面積ではなく“体感的なスケール”」だと、私たちは考えます。

建築は、数値よりも「経験」でできています。
狭いのに広く感じる家。
大きいのに圧迫感がある家。
この違いを生むのが、設計の妙であり、空間の密度設計なのです。

「広さの正体」を疑うことから始めよう

そもそも「広く住む」とはどういうことか。
広さとは、単に床面積の問題なのでしょうか?

答えはNOです。

たとえば、10畳の部屋でも、
天井が高くて視線が抜けていれば「開放感」がある。
逆に、20畳のリビングでも、家具が詰め込まれ、窓が小さければ「閉塞感」しか残らない。

つまり広さの正体は、
■ 視線の抜け
■ 天井の高さ
■ 光と影の演出
■ 空間の余白
■ 音の広がり
■ 匂いの拡散
■ 空気の流れ
といった「五感と認知」によって成立する“感覚的広さ”なのだと言えるでしょう。

小さくても「大きく感じる」家の共通点

それでは、小さな敷地でも広がりを生む家には、どんな設計上の共通項があるのだろうか。

まず一つ目は、高さを設計に取り入れていること。
いわゆる“床面積”は平面の数字。でも、人は立体に住む。
天井高に変化をつけることで、感覚的な空間密度を調整できる。

二つ目は、視線の抜けをデザインしていること。
たとえば小さな坪庭や、隣地をうまく活かした窓配置で、空間の“奥行き”を感じさせる工夫がある。

三つ目は、余白を信じて削ぎ落としていること。
必要以上の個室をつくらず、用途を限定しない“あいまいな空間”を設けている。

この「つくらない」という設計の勇気が、小さな住まいに“暮らしの余白”を生むのです。

空間の“密度”を設計する

小さな家は、空間の密度が命だ。
物理的にはコンパクトでも、密度設計を誤ると、すぐに「詰まった印象」になってしまう。

密度とは、
■ 壁の厚み
■ 仕上げの素材感
■ 家具の高さ
■ 動線の交差
■ 視界のリズム
といった、設計者の“感覚の演出”によって変わる。

たとえば、天井を10cm上げるだけで、圧迫感が消えることがある。
窓の高さを変えるだけで、部屋の明るさがガラリと変わる。
壁をほんの数十センチへこませるだけで、玄関がやさしくなる。

「広く感じる」ための答えは、意外と数字の外側にある。

“余白”のある暮らしを編む

アンドアーキではよく「余白」を大切にした設計をする。

余白とは、ただ何もないスペースではない。
“意味を限定しない空間”のことです。

・書斎にもなる階段ホール
・子どもの遊び場にもなる畳スペース
・将来、個室化できる“間”の空間
・リビングにもなる玄関土間

こうした曖昧な空間が、暮らしを育てる。
そしてその余白こそが、住まいに“広さ以上の自由度”を与えてくれる。

視線をデザインする

設計において「視線の誘導」は極めて大きな要素である。

小さな空間ほど、視線の抜けを意識するだけで、体感は劇的に変わる。

・低い視線で奥行きをつくる
・天井を抜いて縦に広げる
・窓の位置で空を取り込む
・階段を抜けの視線に使う

視線を導くということは、空間の“感覚的面積”を広げること。
目の届く範囲が、そのまま「暮らしの領域」になるのだ。

大きく住めるために「小さくつくる」

矛盾のようだが、「小さくつくること」は「大きく暮らすこと」につながる。

面積を必要最小限にとどめることで、無駄な廊下や空室が減る。
その分、ひとつひとつの空間に設計の密度が上がる。
そして、“暮らす場”としての精度が高くなる。

設計とは、足し算ではなく、引き算の連続だ。
削ること。省くこと。残すこと。
その選択の連続が、「小さいのに大きく住める家」を生み出す。

面積に頼らない家づくりへ

モリケンハウスが目指しているのは、数字では測れない家づくり。
小さな土地でも、狭小敷地でも、家族が伸び伸びと暮らせる空間は、きっとつくれる。

必要なのは、「広さへの誤解」を解きほぐし、
“体験としての豊かさ”を設計していくこと。

「大きく住みたい」なら、「小さく設計する」ことから始めてみてはどうでしょうか。
家の広さは、図面の中ではなく、暮らしの中にあります。

https://www.moriken.jp/

Editor

君島 貴史 Takashi Kimijima
andARCHI(アンドアーキ)編集長

1975年東京生まれ。横浜を中心に150棟以上の建築家との住まいづくりに携わる。デザインと性能を両立した住宅を提案し続けています。「愉しくなければ家じゃない」をモットーに、住宅ディレクターとWebマガジン「andarchi」の編集を行っています。